試用期間はお試し期間にあらず
試用期間というのは,就職してから一定期間のみ本採用とは異なる条件で働くことを意味します。法的には,「会社側が解約権を留保した雇用契約」となりますが,この解約権が自由に行使できるものではないことに注意が必要です。
この点,試用期間は「試し」に採用して(されて)い流もので,その期間で「違うな」と思ったら会社側からすぐに解雇したり,本採用を見送ることができると考えられていることがありますが,これは大きな間違いです。
試用期間については,法律上もその存在を前提としている規定があります(労働基準法12条3項5号等)が,だからといって試用期間中であれば自由に解雇できるとか自由に本採用を見送ることができるわけではありません。
なぜなら,試用期間といえども,本採用を前提とした試みの期間なので,法律上は期限の定めのない労働契約が結ばれているとされ,期限の定めのない労働契約の場合に使用者側が労働者を解雇するには,解雇権濫用と評価されない合理的理由が必要とされているからです。
まずはこの,試用期間といえども自由に解雇したり本採用を拒否したりできるわけではないということを理解してもらいたいと思います。
試用期間中の解雇と本採用拒否の違いについて
次に,試用期間中に会社側から労働契約を終了する場合として,試用期間中に解雇するという場合と,試用期間終了時に本採用を拒否とするという場合があり,この二つも法的には意味合いが異なってくることに注意が必要です。
(1)試用期間中の解雇
まず,前者については通常の解雇と同様の厳しい制限があるというべきです。つまり,解雇は「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」といえない限りは会社側が解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働契約法16条)。試用期間中に解雇するというのは,会社側が自分で設定した期間に労働者に対する指導・改善を諦めるということですから,むしろ通常の解雇よりも厳しく判断されるという見方もできるでしょう。
何れにしても,試用期間中に解雇するというのは通常の解雇と同じく「原則として無効」といえるほど厳しい制限があるとえます。
(2)本採用拒否
試用期間の期間満了時の本採用拒否については,解雇よりも緩やかに認められます。これは,そもそも試用期間というのがそういう性質のものなので当然のことではありますが,やはり気をつけるべき点があります。
それは,本採用拒否が「解雇よりも緩やか」であるからといって,自由裁量で採用を拒否できるというわけではないということです。もともと,解雇自体が労働者の生活に直接影響する権利関係の変動を来すことからその有効性について厳格な制限がされているため,「解雇より緩やか」というのは,言葉以上に厳しいものだと理解しなければいけません。
実際に,裁判例でも本採用拒否が違法無効であるとして会社側に金銭の支払を命じたものが多数あります。
試用期間中の解雇や本採用拒否で金銭支払が命じられた裁判例
試用期間経過後の本採用拒否が無効であるとして会社に対して750万円以上の支払が命じられた事例(東京地裁平成27年1月28日)
事案の概要
土木工事の設計等を行う会社に雇用された従業員について,会社側が3ヶ月の試用期間終了時に解約権を行使する(本採用を拒否する)意思表示をした事案。
裁判所の判断
会社の解約権行使(本採用拒否)は無効であるとし,未払賃金42ヶ月分の支払い(バックペイ)を会社に命じました。
判断の理由
原告の業務遂行能力について,知識経験が不十分であった可能性は指摘できるものの,基本的な設計図面作成能力がなく適性を欠いているとまでは認められず,原告の勤務態度について,会社側が具体的な指示に対して頑なに従わなかったなどの事情があるわけではないことや,原告の仕事により会社の業務にどれだけ支障を来したかという点も明らかではない点からも,解約権行使について客観的に合理的な理由があるとは言えず,無効である。
試用期間満了前にされた解雇が無効であるとして,会社に対して800万円以上の支払が命じられた事例(東京地裁平成21年10月15日)
事案の概要
病院等の経営を目的とする財団法人に採用された従業員が,試用期間満了20日程度前に解雇された事案。
裁判所の判断
使用者の解雇は無効であるとし,未払賃金30ヶ月分以上の支払い(バックペイ)を財団法人に命じました。
判断の理由
原告の業務遂行能力や適格性の判断において相応のマイナス評価を受ける事実は見受けられるが,使用者側が十分な指導をしていたとはいえず,解雇を告げる2週間前の時点では使用者側も退職させようとは全く考えていなかったことなどから,当該解雇は無効である
試用期間中の本採用拒否(留保解約権の行使)が無効であり,会社に対し420万円以上の支払いが命じられた事例(東京地裁平成24年8月23日)
事案の概要
生命保険募集業務等を業とする株式会社に採用された従業員が,試用期間中に本採用拒否(留保解約権の行使)をされた事案。
裁判所の判断
会社の本採用拒否は無効であり,未払賃金14ヶ月分以上の支払い(バックペイ)を会社に命じました。
判断の理由
試用期間中の解雇は,留保された解約権の行使であるから,通常の解雇よりも広く認められる余地はあるとしても,その範囲はそれほど広いものでなく,解雇権濫用法理の基本的な枠組みを大きく逸脱するような解約権の行使は許されない。本件では,受動喫煙で体調を崩した従業員が社長に分煙を求めた後に解雇されており,能力適性を見極めることなく解約回避措置を取っていないことから解約権行使は無効である。
試用期間といえども解雇や本採用拒否は難しい!
以上見てきた通り,実際の裁判例でも試用期間中の解雇や本採用拒否について金銭支払を命じたものは多数あります(ただし,試用期間中の解雇が有効とされているケースも一定数あるので注意してください。)。会社側としても,試用期間だからといって安易に解雇や本採用拒否するべきではありませんし,労働者側としても安易に諦めるべきではありません。
解雇や本採用拒否については,会社側労働者側いずれの立場であっても,専門家である弁護士に相談すべき事柄だといえるでしょう。