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採用内定を取り消されたら法的にはどう行動すべきか?

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内定の取消は無効である可能性が高い!

内定を取り消された場合,取り消された側からすると,期待していた仕事を失い期待していた収入を得られないということになり,生活に与える影響は甚大です。また,内定により就職活動を辞めることで失われた就職の機会なども労働者からすると貴重な機会の喪失といえるでしょう。このように,内定取り消しは労働者に大きな影響を与えるものですが,実は,内定取消は無効である可能性が高いことを知っていますか?

内定取消が無効である可能性が高い理由

採用内定は,会社側が自由に取り消せるようなものではありません。また,採用内定通知書や誓約書に内定の取消事由が記載されていることもありますが,その取消事由に該当すれば直ちに内定取消が許されるわけでもありません。

その理由を考える場合,法律論としては,採用内定という行為がどのような法的意味を持つのかという点が出発点となります。

この点について,内定時点で労働契約が成立して効力も発生するが就労開始時期が定められているという考え方と,内定時点で労働契約は成立するが効力発生時期は就労開始時期であるという考え方があり得ます。いわゆる大日本印刷事件(最判昭和54.7.20)は前者を採用し,電電公社近畿電通局事件(最判昭和55.5.30)は後者を採用しているといわれます。最高裁なのに法律論の考え方が統一されてないの?と思う方もいるかもしれませんが,内定の法的性質に関する最高裁の立場は,大日本印刷事件の次のフレーズに表れておりとても明瞭です。それは,「その実態は多様であるため,採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。」というもので,要するに,内定の法的性質は個別判断すべきですよというものです。ですので,上記最高裁の立場には何ら矛盾はありません。

ただ,一般論としていえば,会社側が内定を出し,労働者側が内定承諾書を出すような形のよく行われている採用内定は,就労始期付かつ解約権留保付の労働契約が成立していると見られることが多いのではないかと思います。このような場合の内定取消は使用者側からの一方的な労働契約の解消ですから,留保されていた解約権行使(内定取消)をする場合には,解雇濫用権法理に準じて,「解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当」といえる限りにおいて有効なものというべきです。具体的には,内定取消事由が,採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できないような事実であることが求められています。

したがって,採用内定は,会社側が自由に取り消せるようなものではなく,「解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当」といえない限りは,違法無効ということになるのです。

違法無効な内定取消への対抗手段は?

では,実際に違法無効と思われる内定取消の通知や通告を受けた場合には,労働者としてはどのように対処すれば良いのでしょうか?

違法無効な内定取消を受けた場合には,労働者としてはその内定取消が違法無効であることをしっかりと主張し,従業員たる地位を有していることの確認と賃金請求を行うか,損害賠償請求を行うことになります。これは,解雇が違法無効であった場合と全く同じです。「約束通り働かせてくれ(給料も支払ってくれ)」というか,「違法無効な内定取消で損害を被ったから賠償してくれ」というかの違いです。

ただし,採用内定はその性質上,就労始期または効力発生時期が定められているため,内定取消について就労開始前または効力発生前に直ちに金銭補償を求める場合には,既に就労開始している解雇の場合と比較して別段の考慮が必要になる点には注意してください。また,採用内定の有効性を検討する際には,採用内定までのプロセスがどのようなものであるかを個別具体的に検討し,その採用内定が法的にどのような意味を持つのかをしっかりと把握しておく必要があります。

まとめると,内定取消を通知,通告された労働者としては,まずその内定が法的にどのような意味合いのものであったかを把握し,その内定取消が違法無効であることをしっかりと主張し,その主張を支える証拠があるかを検討しなければなりません。次に,違法無効な内定取消に対して,あくまで従業員として働かせて欲しいという方向で交渉するのか,その会社での就労は諦めて一定の金銭補償を求めるのか,両睨みなのかなど会社と交渉に入る目的を明確にすべきです。そして,内定取消が違法無効であるという主張と理由を会社に対して展開し,会社との交渉に入ることになります。

これらは多分に法律的な考え方や裁判実務的な証拠収集能力,交渉力が必要となる行為ですので,まずは労働問題を取り扱う弁護士に相談するのが良いでしょう。そして,その内定取消が違法無効といえるか,いえるとして金銭補償を求めるのであればいくらくらい認められるのか,などを具体的に検討してもらい,最終的に会社との交渉に入るのであればやはり弁護士に依頼することをお勧めします。

内定取消が有効になる可能性が高いケース

逆に内定取消が有効となる可能性が高いケースとしては,会社が非常な経営難に陥り人員を増やすことができない場合,内定者が内定後に怪我や病気となる就労困難な場合,内定者が申告していた経歴や学歴の重要部分に虚偽があった場合,内定者が大学卒業等の採用前提条件をクリアできなかった場合などです。

また,そもそも取り消された内定の法的性質について,労働契約が成立しているとまではいえず,労働者側にも保護されるべき期待権がないと評価されるような事情の下では,内定取消が有効であるとされます。

この辺りの判断も簡単ではありませんから,やはり個別具体的に労働問題に強い弁護士に相談されるのが良いでしょう。

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