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懲戒解雇の場合でも退職金はもらえる?もらえない?

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会社から懲戒解雇され,退職金を支払わないと言われてしまった!

Aさんは,勤続20年の会社でトラブルを起こしてしまい,懲戒解雇されてしまいました。それに伴い,会社からは,退職金も支払いませんとの連絡が。Aさんは,この会社で20年も頑張って働いてきたにもかかわらず,退職金をもらえないのでしょうか…?

結論をいうと,懲戒解雇でも退職金をもらえる場合があります!以下,解説していきます。

 

退職金とは?

一般的に,労働者が退職時に勤務先から支給される一時金のことを,「退職金」(退職手当)といいます。退職金とは,労働者が受け取れるはずの毎賃金の一部を使用者(勤務先)が積み立て,その合計を退職にまとめて支給するという考え(賃金としての性質)と,勤務期間中の勤務先への貢献・功労の度合いに応じて支給するという考え(報奨金としての性質)があり,他にも退職後の生活保証の意味合い等があります。

 

退職時には必ず退職金がもらえるの?

退職金は,支払われる企業が多くあるので,法律によって決められた権利を思われるかもしれませんが,そうではありません。

原則的に,退職金が支給されるためには,労働協約,就業規則,雇用契約等の支給根拠が必要です。例外として,上記に退職金の定めがない場合でも,慣行等によって,支給の算定や支給基準についてある程度定まっているのであれば,請求できることもあります。

 

懲戒解雇なら当たり前に退職金が支給されない?

既に説明したとおり,退職金は,就業規則等に支給規定がないともらえません。ということは,退職金規定があれば,普通は退職時に退職金がもらえます。

では,退職金規定があっても退職金が支給されない場合いはどのような場合があるでしょうか。

会社から「君を懲戒解雇にする。懲戒解雇なのだから,もちろん退職金はなしだ!」と言われた場合,確かに,そう言う会社の言い分も,気持ちとしては,分からなくはありません。

しかし,退職金は何らかの規定がないと支給されないという理由と同じく,退職金を支給しない(もしくは,減額する)ということも,下記のような就業規則規定等に予め明確に記載がなければ,会社は勝手に退職金を没収したり,減額したりすることはできないのです。

第○条 (退職金の不支給要件)
1. 次の各号の一に該当する者については,退職金を支給しない。但し,事情により 第 10 条に規程する自己都合退職金支給率を適用して算定した退職金の支給額を, 減額して支給することもある。
① 就業規則に定める懲戒規程に基づき懲戒解雇された者

なので,懲戒解雇をされたら,まずは,就業規則に退職金規程があるのか,不支給に関わる規定があるのか,確認しましょう!

 

就業規則等に規定がある場合,懲戒解雇で退職金はもらえないの?

通常,懲戒解雇になった場合,就業規則に不支給の規定があれば,退職金を支払う義務を使用者側は負わないので,原則として退職金は請求できません。

しかし,まだあきらめるのは早いです!

退職金規定で不支給・減額ができる場合について記載があるからといって,常にすべての場合で不支給・没収ができる訳ではないのです。

就業規則に退職金不支給の規定があっても,不支給・減額を有効に適用するのは,労働者のこれまでの勤続の貢献・功労を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られるとして,不支給の規定があっても一定程度は退職金を支払うべきとした裁判例があります。

最初にお伝えしたことを思いだしてください。退職金は,賃金や報奨金の意味合いがあるのです。そのため,今までの頑張りを打ち消すほどのよっぽど悪質な場合でなければ,退職金は支払うべきだという判断がされたということです。

では,実際にその裁判例を見てみましょう。

 

東京高裁平成15年12月11日判決

【事案の概要】

ある鉄道会社Yが,電車内での痴漢撲滅に取り組んでた中で,自社社員Xが電車で女子高生に対する痴漢(迷惑防止条例違反)で逮捕された。社員の一人が身元引受のために警察署に行くと,実は,Xは以前にも数回痴漢で捕まっいることが判明。「痴漢撲滅キャンペーンをしている会社の社員が痴漢をするなんて,あるまじき行為!」として会社はXを懲戒解雇とし,就業規則の規定に基づき退職金を不支給とした。

【裁判所の判断】

本件懲戒解雇は有効であるが,このような賃金の後払い的要素の強い退職金について,その退職金全額を不支給とするには,それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに,それが,業務上の横領や背任など,会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には,それが会社の名誉信用を著しく害し,会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど,上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である。

本件行為が,(業務上横領などに比べて)相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないと考えられるから,Yは,本件条項に基づき,その退職金の全額について,支給を拒むことはできないというべきである。他方,上記のように,本件行為が職務外の行為であるとはいえ,会社及び従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるYにとって,相当の不信行為であることは否定できないから,本件がその全額を支給すべき事案であるとは認め難い。そうすると,本件については,本来支給されるべき退職金のうち,一定割合での支給が認められるべきであり,その具体的割合については,本件行為の性格,内容や,本件懲戒解雇に至った経緯,また,Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え,とりわけ,過去のYにおける割合的な支給事例等をも考慮すれば,本来の退職金の支給額の3割である約280万円であるとするのが相当である。

 

弁護士に相談を!

勤務先から懲戒解雇され,勤務先に退職金は支払わないと言われてしまったら,ご自身でもう無理かなと判断せず,勤務先の就業規則,退職金規定をご確認のうえ,早めに弁護士へご相談ください!

内容によっては,上記のように退職金を請求できる場合があります。

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