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不当解雇された場合の補償金額の相場は?

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解雇した?された?原則無効です!

解雇とは,使用者から一方的に労働契約を終了させることをいいます。「お前はクビだ!」というやつですね。これに対し,退職勧奨というのは使用者から労働者に対して「辞めた方がいいんじゃないか」とか「辞めてくれないか」などと持ちかけることをいいます。また,アルバイトや契約社員のように期間の定めがある労働契約については,更新をしないことを「雇い止め」といいます。解雇,退職勧奨,雇い止めなど契約終了に関するは労働問題の相談の中でも大きな割合を占めるものです。それだけ多くの人が解雇等により使用者から契約終了を告げられているということです。ところが,解雇が原則として無効(労働契約法16条)であり,会社側が一方的に労働契約を終了するためには一定程度の金銭補償をしなければいけないことが多いということはあまり知られていないように思います。ここでいう金銭補償とは,解雇予告手当とは別の金銭補償のことです。

解雇に関する金銭補償の法的構成

上記の通り,不当解雇された場合には,労働者は一定の補償金額を会社に対して請求できます。では,その補償金を求める法的構成(根拠)はどのような点にあるかを見ていきましょう。

(1)不法行為構成

解雇に関する金銭法相の法的構成(根拠)としては,まず,労働契約法16条により無効となる解雇をされたことで事実上職を失ったことを捉えて,会社等の使用者から労働者に対する不法行為(民法709条)に該当するとして,これにより生じた損害の賠償を求める方法があります。 この場合,職種や年齢から再就職までに合理的に必要な期間に相当する賃金を損害(逸失利益)として計上することになります。解雇の具体的態様によっては,慰謝料が発生しているとして,逸失利益と別に慰謝料を請求することもあります。 解雇された労働者に復職の意思がない場合などには,不法行為構成で会社に対して損害賠償請求をしていくことになります。

(2)バックペイ(賃金請求)

労働者に復職の意思がない場合などに使われる不法行為構成に対して,労働者に復職意思がある場合には,原則として労働者の地位があることの確認を求めていくことになります。

労働者の地位があるということは,労働者から使用者への賃金請求権があるということですから,労働者は使用者との話し合いが終わるまでは賃金請求権があるということになります。

これは,会社側から見ると,労働者との紛争が長引けば長引くほど,働いていない労働者に対して支払わないといけない賃金額が大きくなっていくということになります。この賃金は,解雇が無効であったことを前提とする紛争解決時に「遡って」支払われる性質のものであることから,「バックペイ」と呼ばれています。

解雇に関する紛争は,1年2年と続くことがあるのでこのバックペイはかなり強烈な効果を発揮します。解雇が無効ということになると,会社側は,労働者の復職を認める義務とともに,その間の賃金を全額支払う義務があるということになるためです。会社としては,働いてもらってもいない,しかも辞めさせたい人間に給料を1年分など支払わないといけなくなるので,解雇を争うことは経済的にも心情的にもかなりのリスクがあるといえるでしょう。バックペイというのは,それほど強烈な効果を有しているのです。

(3)解決金

上記2つの法的構成を踏まえて,「解決金」というファジーな名目の支払いと引き換えに労働契約を終了する形で紛争解決に至ることがあります。要するに,話し合いによる解決(示談)です。

会社としては,労働者との労働契約を終了することができるというメリットがあり,労働者としては,裁判等の時間的経済的コストをかけずに金銭補償を受けられるというメリットがあります。

解雇が無効であることが多いこと,バックペイを主張されると紛争が長引けば長引くほど会社が負けた場合の会社の損失が大きくなることをしっかりと理解している代理人が会社側に付き,裁判で解雇の有効性が争われると実に様々な事実関係が主張され時間的コストがかかることを労働者側が良しとしない場合には,示談交渉がまとまりやすいといえます。

結局,労働者が受け取れる補償金額の相場は?

解雇された人も,解雇する会社も,一番気になるのは不当解雇となった場合の労働者への補償金額でしょう。この補償金額は,不法行為構成を取るかバックペイ構成を取るかで考え方が違ってきます。

まず,不法行為構成の場合,逸失利益というのは再就職が決まるまでの補償金という意味合いが強いので,その職種や労働者の年齢,職歴などが大きく影響します。しかし,通常想定される再就職までの期間をあえていえば3〜6ヶ月でしょう。

なので,不法行為構成を取る場合には3〜6ヶ月分の賃金程度の金額が目安になると考えて良いでしょう。

他方で,バックペイ構成の場合は強烈です。紛争期間中の賃金が補償額になるので(ただし6割程度までは金額の調整があり得ます),紛争が長引けば長引くほど補償金額は高くなります。裁判に至ると解決するまで6ヶ月以上はかかりますので,裁判に至る場合には最低でも6ヶ月分の賃金程度の補償金は期待できるということになります。裁判例では,最高裁まで争われて約10年分の賃金支払いが命じられたケースすらあるので,このバックペイがいかに強烈な効果を有しているかが分かります。

こうしてみると,不法行為構成よりもバックペイ構成の方が圧倒的に有利なのではないかと思うかもしれませんが,バックペイは労働者に復職意思があることを前提としているので,紛争が解雇された直後のフェーズにある場合には,会社側から「ならば復職を認めます」と対抗されることがあります。会社としては解雇しているので復職を認めたくはないはずですが,経済的合理性を考えるのであれば復職させた上でしっかりと解雇が有効とされる状況を作って再度解雇するという戦略を採ることもあり得ます。この辺りはややマニアックですが,いかなる法的構成を取るか,あるいはいかなる法的構成を前提として示談交渉するかという点に関わってくるところで,会社側も労働者側もまさに弁護士の腕の見せ所です。

最後に,上記の法律論を前提にして具体的事情のもとでどの辺りを補償金額として落ち着けるかということを協議して解決を目指すのが解決金(示談金)による解決となります。当初の請求と対案に大きな差があることは通常ですが,その後のそれぞれの第二案でも金額の開きが大きい場合にはバックペイ構成で裁判となることが多いように思います。裁判になるのであれば紛争が長引くことが予想されるので,一般論としては不法行為構成よりもバックペイ構成の方が労働者側にとって有利だからです。

ただし,裁判となる場合よりは示談交渉により解決する方が多いので,示談交渉による補償金額の相場を無理やり上げるとすれば,賃金の3〜6ヶ月程度といえると思います。

何れにしても,解雇が不当解雇であれば(そして不当解雇である可能性は通常極めて高い),会社は労働者に対してそれなりの金銭を支払わなければならない可能性が高いといえます。解雇をされる労働者はもちろん,解雇をする会社側もこのことは十分に頭に入れて解雇を行うべきです。会社が解雇をする場合には,顧問弁護士などに相談して事前にできる限りの準備をしておくべきでしょう。

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