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派遣先から解雇と言われたときの対処法を弁護士が解説。

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派遣社員ってどんな契約?

派遣契約というのは,派遣元の会社と労働者が雇用契約を結び,労働者は派遣先の会社の指揮監督の下で労務を提供するという労働契約の類型です。通常の労働が会社と労働者という二者間の関係性であるのに対して,三者間の関係であることが特徴です。

このように,派遣契約は3者間の契約関係となっていることから,解雇に関する法律問題についても,これをしっかり理解して対応する必要がありますが,実際の現場ではそれほど意識されていないことも多いように感じます。

ちなみに,一般社団法人日本人材派遣協会によれば,2019年1〜3月の派遣法の派遣社員数は,145万人であり,全ての雇用労働者の2.5%程度とされています。

 

派遣先の会社から解雇と言われた?

派遣労働者が,派遣先から突然「もう来なくていい」とか「解雇します。」などといわれた場合,どのように対応すべきでしょうか。

まず理解しておかなければいけないのは,派遣労働者と雇用契約関係にあるのは派遣元の会社であって派遣先ではないということです。そのため,法的には,派遣先が派遣労働者を解雇することはできません。派遣先が解除できるのは,あくまで,派遣元との労働者派遣契約です。

とはいえ,派遣労働者にとっては,実際に働く先は派遣先ですから,派遣先の会社から「来るな」と言われると事実上そこで働くことは難しいですよね。もし派遣先からそのようなことを言われた場合には,まずやるべきことは派遣元の会社への報告です。

派遣元の会社としても,派遣労働者からそのような報告が来た場合には,すぐいん派遣先の会社に連絡を入れ,事実や意図の確認をすることになります。

その上で,派遣労働者側に落ち度がないとしても,派遣契約自体が解消されるか別の派遣労働者を派遣するという形で落ち着くことが多いでしょう。

そうなると,派遣労働者としては,仕事がなくなってしまい,ノーワーク・ノーペイ原則により収入も失うのかという問題がありますが,結論からいうと賃金の60%は休業補償として確保できます。

 

派遣契約解除と休業補償60%

まず,労働法規の原則の中で「ノーワーク・ノーペイ」の原則があります。雇用契約の本質は,労働者が労務の提供をする義務を負い,使用者が対価としての賃金を支払う義務を負うという点にあるので,労働者が労務の提供をしないならば使用者は原則としてその対価である賃金を支払う必要がないということになります。これをノーワーク・ノーペイ原則と呼びます。

ただし,原則には例外があります。その中の一つが,労働基準法26条に定められています。

(休業手当)

第26条  

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

労働基準法

ポイントは,「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合には,休業期間中は労働者に平均賃金の6割以上の休業手当を払わないといけないという点です。

この「使用者の責に帰すべき事由」というのは,「取引における一般原則である過失責任主義とは異なる観点も踏まえた概念であり,民法536条2項の『債権者の責に帰すべき事由』よりも広く,使用者側に起因する経営,管理上の障害を含む」とされています。要するに,天変事変のような不可抗力の場合を除いて,使用者側に起因する経営・管理上の事由を含むとされています。これにより,労働者自身の責任によらない休業の多くが,労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たることになり,労働者は休業補償として平均賃金の6割の請求ができるということになります。

ちなみに,「使用者の責に帰すべき事由」の例としては,天候不良,材料調達の失敗,仕事がない,従業員不足,設備の故障などがあります。

 

休業補償を100%請求できる場合も!

上記の説明を読んで,民法536条2項の「債権者の責に帰すべき事由」で労務提供できなくなったら6割でなく10割の休業補償がもらえるのかどうかが気になった方もいるかもしれません。結論としては,その通りです。ここでは,使用者=債権者となるのですが,そもそも民法では「債権者の責に帰すべき事由」によって労働者が労務提供できない場合,債務者(労働者)は,その「反対給付」(賃金)を受ける権利を失わないとしています(民法536条2項)。「債権者の責に帰すべき事由」とは,分かりやすくいえば,債権者(使用者)に故意過失があって就労不能になっているような場合です。

労働基準法26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業」を,民法よりも広く捉えるえる代わりに休業手当の額を60%に抑えてバランスを図ったということができるでしょう。だから,逆に狭い範囲の定めをしている民法に該当するようなケースでは,100%の賃金(休業手当)を請求できると考えられることになるのです。

 

民法改正で100%の休業手当がもらえなくなる可能性?

ここは少しマニアックな解説になるので興味のない方は飛ばしてください。結論からいうと民法改正されても休業手当が100%受け取れることはこれまで通りあります。

2020年4月から新民法が施行されることはご存じの方も多いと思います。この新民法では, 536条2項の反対給付の部分についての定めが,旧民法の「債務者は・・・権利を失わない」ではなく,「債権者は・・・履行を拒むことができない」と改正されます。この表現の変更は,元々は削除される予定だったとか色々な理由があってなされたのですが,この変更によって,賃金請求権自体は失われてしまう(=休業手当を請求できない)という解釈になってしまわないかという疑義が生じ得ます。

しかし,この点については,新民法の規定であっても「履行を拒むことができない」以上は賃金支払い義務があるというべきですから,民法改正後も同様の結論になると解釈するのが自然ですし,法制審議会においても,次のように同様の見解が示されています。

 この改正案を前提としても,536条2項 は従前のとおり,雇用の場面における報酬債権,反対給付債権の根拠規定としての機能を果 たすことになると考えております。

法制審議会民法(債権関係)部会第 95回会議議事録12頁

ですので,民法改正によっても,100%の休業手当がもらえなくなるということはありません。

 

休業手当をもらいながら,次の派遣先を探してもらおう

横道が長くなりましたが,派遣先からクレームを入れられて派遣元からあの派遣先にはもう行かなくていいとか派遣契約が解除されたので行かないでくれと言われた場合,これは,「使用者の責に帰すべき事由による休業」といえますので,平均賃金の6割を休業手当として派遣元に請求できます。ここでの「使用者」は,派遣先ではなく派遣元です。

他方で,派遣元は「就業の確保ができない場合は,まず休業等を行い,当該派遣労働者の雇用の維持を果たすようにするとともに,休業手当の支払い等の労働基準法等に基づく責任を果たすこと」とされています。(派遣元事業者が講ずべき措置に関する指針 第2の2(3))。

そのため,派遣元としては新たな派遣先を派遣労働者に紹介するなどの「解雇回避努力義務」がありますので,派遣労働者としては,休業手当をもらいつつ紹介された派遣先での就労可能性を探ることになるでしょう。

 

働かずに期間満了まで休業手当をもらえる?

そうなると,休業中に派遣元から紹介される派遣先での就労を断り続けて契約期間満了まで休業手当をもらえるのだろうかと考える方もいるかもしれません。

これは,ケースバイケースですが,解雇が正当化されるには使用者側にかなりの努力が求められている裁判実務を考えると,できる可能性は十分にあるでしょう。ポイントは,解雇が許されるほどの努力を派遣元会社がしたかという点にあります。

この点について,いわゆる「アウトソーシング事件」(津地裁平成22年11月5日判決においては,Y(派遣会社)が,

「もともとXの希望する条件とは合わなかった1社についてのみ新たな派遣先として打診したが,これが不調になるや新規派遣先の紹介を断念し,A社との間の派遣契約解除と同時に解雇に踏み切ったのであり,解雇回避後力義務を尽くし切ったといえるかについては疑問が残るといわざるを得ない」

「アウトソーシング事件」(津地裁平成22年11月5日判決)

とされています。

少なくとも,条件に合わない1社を紹介しただけですぐに解雇するようなことはできないということです。

派遣元としては,真摯に新たな派遣先を探して派遣労働者に紹介していくことが必要だといえます。解雇が許容される場合というのは,もともとの派遣先とほぼ変わらない職務内容と待遇の派遣先での就労を派遣労働者が拒否した場合や,真摯に探して探して複数回にわたって派遣先を紹介したけれども派遣労働者が就労しなかった場合などが考えられます。

 

派遣だとしても諦める必要なし!

以上のように,派遣社員であっても,派遣元から簡単に解雇されるようなことはありません。これは,派遣先からのクレームや交代要求があった場合でも同じです。ただし,派遣労働者に派遣先での債務不履行があったような場合は解雇が正当化されやすくなるので気をつけてください。

派遣社員の方で,解雇といわれたとか,解雇とはいわれていないが休業補償を打ち切るなどといわれた場合には,すぐに諦めずに,労働問題に強い弁護士に相談されることをお勧めします。

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